鎌倉での仕事を終えて夕方、
折角なので、と由比ヶ浜へ向かった。
日暮れの海にもぽつぽつと人気(ひとけ)はあって、
風にあたっていると、
遠くで笑う女の人達の声が、
さっぱり明るく心地よかった。
温かいものでも食べて帰ろうか、
そう言われて入ったのは近くにあったタイ料理屋で、
ほかほかと白い湯気をあげるトムヤムクンは、
ココナッツミルクの甘い香りがした。
エビの殻を丁寧に剥きながら、
アンパンマンはザンゲした。
ーなんにもしなかったんだよな、親らしいことはなにも。恥ずかしいことだけど、一緒に過ごした時間も殆どない。
ー親らしいことってなんですか。そんなものあってないようなものでは。
ーそうかもしれない。でも俺が彼(息子)のためにやったことは本当に少ない。
ー例えば?
ー大学までの金だけは工面した。それだけ。それを彼がどう捉えているかは、分からない。望まれていたかすら、知らない。
アンパンマンはコクハクした。
愛すべき人を振り回して傷つけてきたと。
自分もまた傷ついてきたと。
名を揚げては裏切られて妬まれて、
それでもまだまだ淋しくて、
人に頼られたくてたまらない。
まだ愛されたくて、たまらないのだと。
ジャムおじさんもバタコさんも失った世界で、
贖罪か誇りか、
そのために身と心とを削っては配り歩き、
世に憚らんとすそれか、
憎まれっ子よ。
アンパンマンはザンゲする。
私はそれに耳を傾ける。
こんなにもしおらしい顔で、
甘い香りのトムヤムクンをすすって見せる。
まるきり信じたり、するものかね。
あなたはまだ、憎まれたがっている。
こんなものでは飽き足らず、
壊されたがって、うずうずしている。