看板も案内もない小汚い二重扉をこじ開けて地下へ降りると、手元をやっと照らす程度の灯りしかない、暗く煙たい空間があって、人々はそこで土色のマグカップを片手に仏仏と語り合ったり、思い出したことをただ書き殴ったり、それを真面目なヤギの声で歌ったり、目を開けたまま遠い夢を見たりしている。埃を被ったスピーカーの振動板がガタガタ震えながら、一晩中、怒号のようにJun Miyakeを鳴らしている。
なんてね、そういう店が近くにあったらいいな。あれば毎晩通い詰めるのに。店員さんや警備員さんはみんなロボット。看板犬は3匹のaibo。メニューはコーヒーと紅茶とナッツだけ。パンケーキは要らない。お酒はもっと要らない。
というわけでお気に入りのアルバム << Lost Memory Theatre -act 1 >> (三宅純) を聴いているので、私は現在ご機嫌です。ここに収められている音楽はタイトル通り、人々の失われた記憶が流れ込む架空の劇場、「ロストメモリーシアター」で流れている音楽らしいですよ。何故か小学校の体育館倉庫の奥にあった、水色の平均台のことを思い出しています。古かったのか相当痛んでいて、ペンキが剥げたところから、まっくろな木の目がギロギロしていた。
「まっくろな目ゆえ鼠は殺される」
そんな俳句、どこかで読んだな。
へへ、今日も読んでくれてありがとう。君が失くした記憶もさっき、音の隙間を、ラクダと渡って行ったよ。
いいね。本当にいい。
うう、読んでくれてありがとうです。
Jun Miyakeってどんな声をしていますか。
一度インタビューか何かの映像を見たことがあるのですが、その時の声は抑揚も少なく、結構平坦な印象を受けました。でもなんだろう、ギザギザカクカクした感じはかなり少なくて、どちらかというと湿気とか丸みを感じる声だった気がします。結構暗めのモスグリーンにね、インスタで写真を編集する時とかにフェードって機能がありますよね?あれをちょっと強めにかけるようなイメージ。めちゃくちゃ薄いんだけど、しとっとした白い膜がうっすら張ってあるような、そんな声、かな。
彼は自身の音楽の中でよくトランペットを演奏しているんだけど、その音は彼が話す声よりずっと危ない感じがします。熱い白い煙をぼわぼわぼわーっと吐き出すような演奏。生まれる時に同時に死んでもいく煙は、はじめから残響、はじめから残り香みたいで、妙に懐かしいの。でもだからってついて行くと不意にハンマーでやさしく殴られて、そのままひゅるひゅる拐われます。気づけば煙と一緒にあの世とこの世を行ったり来たり・・・っていかん、つい妄想が過ぎました。うひ。
聴いてる