ヌシには会釈を。

タイトルを最初に書くのをやめました。今まではダーリンで文章を書くとき、かならずタイトルを考えてから執筆していたんだけれど、どうも本調子で書けないことに気づいた。

本調子、っていうのは「うおおおペンが止まらねえ!」というふうに円滑に記事を書き進めることができる、ということではないよ。なんだかなあ、脱線ができない制限が煩わしくなったんだ。

 

今日は道後温泉の話をしようと思う。

今日までの3日間、四国をぐるっとまわる旅行をしていたんだけれど、かなり複雑な気持ちのまま帰宅することになった。

道後温泉って、3000年前から存在していると言われる日本最古の温泉だからさ、もっと伝統的な厳かな雰囲気がするのかなあ、って思って気持ちを整えてから行ったんだ。

そしたらね、まあ予想はできたことだけれど観光客の多いこと。ま、自分も観光客だしね。でもねえ、すっからんの湯船とはコントラストがありすぎる身体を洗う人の多さ。

シャワーの数が当然足りなくて、素っ裸のまま申し訳程度のタオル一枚をそっと身体に当てている女の人がずらりと入り口に並んだ異様な光景だった。

わたしもその行列に加わって、タオルをそっと胸にあてた。しかし、後ろは丸出しだからとにかく寒い。寒いこと。入り口に背を向けているから、ドアが開くたび背中の鳥肌が総立ち。

気を紛らわせようと行列から顔をびょんっと出してキョロキョロ辺りを見回してみた。正面には、スクナビコナノカミの伝説(体調を崩したスクナビコナノカミが道後温泉に浸かったら元気を取り戻して石の上で踊り始めたっていう話)の絵画がタイル張りにされていて、迫力があった。

湯舟は珍しいゆるいカーブの長方形で、中央あたりに湯の噴出口があった。湯釜っていうものらしい、という知識は事前予習のおかげ。

ほんとうに神話の世界だなあ、なんてうっとり…

していると、なにやら湯釜のすぐそばあたりで中年の女性が怒鳴り散らしている。

湯船の中央には人が全くいなくて、そこを勢いよく横切るものだから、水しぶきが目立っていた。どうやら、女子大生らしき若い女性が髪の毛を縛らないまま入浴したことに怒っているようだった。

そりゃ、マナーを守らなかったあの子が悪いね。

でもあんなにブチ切れるほどのことかなあ?と思って、中年女性を目で追ってみることにした。彼女は慣れた手つきで桶を使ってタオルをゆすいだり、新しく入ってきたおばあちゃんに会釈したりしていて、ここの常連だとすぐにわかった。

縄張り意識でもあるのかもしれないなあ。

そんなことを思って、行列に目をやった。まだまだあと2人前にいる。シャワーは相変わらず満席。

というのも、どうも先程からまったく席を動かないおばあちゃんが5人ほどいるのだ。困るなあ。わたしの背中の毛穴はもう悲鳴をあげているぞ。

もうおばあちゃんたちは身体を洗い終わっていて、シャワーから出てくるお湯を身体に当てているだけだった。もう湯船に入りなよ、おばあちゃん…

なんだかだんだん恨めしくなってきて、おばあちゃんを心で睨みつけていると、先程の中年女性がそのおばあちゃんのもとに駆け寄って談笑を始めた。

ええ〜、髪の毛はだめでシャワー独占はいいの?わからん!

もやもや。もやもや。

さっきまで絵画とか湯船を見て「神話の世界だ!」ってウキウキしていた自分がばかばかしくなってきた。ここは彼女たちの縄張りなのかな、そうなのだね。

でも、その一方で彼女たちのことをかわいそうだと思った。

彼女たちは重要文化財に登録される前からこの温泉に通っていたのかもしれない。もしそうだとすると、なんだか観光客としてやってきた自分がばい菌みたいにいらない存在に思えてきた。

彼女たちはきっと、昔ながらの道後温泉を捨てきれないんだなあ。今の外国人や家族連れ、若い女子大生にあふれた観光地化したことを受け入れられなくて、葛藤をしているのかもしれないなあ。抵抗がこういうちょっともやっとくる行動に出ているのかもしれないなあ。

なんだか申し訳なくなってきたぞ、めそめそ。肩身が狭くなってきた。

せめての償い、というか昔ながらの道後温泉を思い浮かべて欲しいと思って申し訳程度だけれど、湯船に浸かるときに中年女性に会釈をした。

道後温泉は公共の施設なのだから、赤の他人に「失礼します」の断りなんていらないんだろうけど、必要な気がした。決して心の底から納得はできないけれど、彼女たちに少しでも前向きになってほしいなあ、って勝手に妄想を突き進めてしまった。

 

でも自分は、自分の感じる価値とは違った価値を求めにやってきた人たちを排除するような行動をしたくないなあ、なんて思った。

ダーリンでもね。タイトルをさきに設定してしまうことは「この内容以外のことは排除しまーす」っていうことに近い気がした。少なくとも、自分の中では近かった。だからタイトルをさきに書くことをやめます。

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