薔薇の香り (2)

続いて日付通り、16日のダーリンです。(だらだらとオチもなく…すみません。)

コンビニに行ってきますとLINEして、あれこれ買って部屋に戻った。彼女は布団の中でケータイを触っていて、つまりはしっかり生きていた。むしろピンピンしていた。当然である。鍋でお湯を沸かしてスープはるさめを作ると、「これはこれは、いいチョイスですね〜」と喜んで起きてきてくれた。これには私も猫被りのくせ、うっかり尻尾をフリフリした。

というわけで風呂にも入らないまま、

昨日と全く同じ服のまま、

実は恐る恐る買ってきたココアをなるだけ自然に飲みながら、

私は今日も1日先輩の部屋に居座った。ほぼずっと布団にくるまり、2人でだらだら音楽を聴いていた。私は年末になると、その年心に残った曲をプレイリストに整理する。大分こっぱずかしいけど、リストには「無声慟哭」というタイトルを付けている。ある詩集の項目名を引用したもので、7年前に作り始めた、言語化できなかった歪な感情のための記憶の倉庫。時間がそれらの底を浚ったり、朝の光がそれらを焼いてしまわないように、留めたい感情を出来るだけありのまま思い出せるように、そんな卑しい願いを持って今も続けている。音楽を流しながらタイトルやアーティスト名、アルバム名を記録していく私の作業を横で見ながら、「これは好きかも」とか「これ嫌い、こんなんどんな気分の時に聴くわけ?」とか、彼女は割と明け透けに、そして律儀にコメントし続けた。かと思うと急に静かになって、ピーナツをポリポリ噛み砕いていた。興味があるのか無いのか。気を遣っているのか遠慮がないのか。面白い人である。

途中昼寝をしたりご飯を食べたりしながら、ざっと100近い曲を飛ばし飛ばしで聴き終えると、もう夕方になっていた。少しだけもの悲しかったのは、彼女が「坂本龍一のやつが1番良かった。自然な感じで腑に落ちた。」と言ったことだった。アルバム《Async》の中の1曲目、「andata」のこと。私はこれを聴く時、のっぺりとした偽物のコンクリートの道を、喪服の人間が際限なく埋め尽くしているようなイメージが浮かぶ。しかも葬列は動かない。絶対進まないのだ。そこにあるだけ。時々バグのようにぐにゃりと歪んで見えるが、でもそれだけ。その光景は悲惨なのにやけに安らかな雰囲気もあって、つまり強い諦めのようなものがどっぷりと満ちていて、不穏だ。でも彼女はそれを、自然だと言った。腑に落ちる、と。彼女が何を見て何を思っているのか、私には分からない。おまけに彼女が誰なのか、私は知らない。でもとても好きだと思う。分からなくてもいいやと思う。

少し早めの夕飯に、店でお好み焼きを食べて解散してきた。彼女はまた明日から修行僧になるらしい。
だけど夜家に帰った時には、あったかいココアでも作って飲んでくれるといいなと思う。
明日はもう、寒くないといいなと思う。

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