だから夏は嫌いなんだ。

 

食材を守るためからか、体の芯までもが凍えてしまいそうになる空間で、わたしはウィンナーを手に取っていた。2袋セットでお得!と年中大胆的なPOPが飾ってあることで人生で一度は見たことのあるはずのウィンナーだ。

200円代、300円代、400円代の三種類があった。いつもとりあえず200円代のを手に取っている。400円代の方が美味しいものなのかこういうものは。このウィンナーはそのまま食わず、オムライスの具材に使うので安い方ので十分かなという判断からわたしは今日も200円代のウィンナーを手に取った。

家の前にセミが死んでいた。なぜセミは、セミに限った話ではないけれど虫は腹を見せてつまり仰向けで死んでいくのだろうか。単なる重力の問題なのかそれとも、虫の最後の悪あがきからなのか。それにしてもセミの腹はなぜ白いのか。

様々な疑問が湧き出ては遥か彼方へと消え去っていく。この先生きていく上でわたしにはあまり必要のない情報と思ってしまっているからだ。世界の全てを知ることができてしまうように錯覚させる手のひらサイズの機械でさえ、優先するものはそんな情報の検索よりも友人の情報を運ぶ青い鳥と写真自慢大会の色とりどりの箱だ。

前に立つだけで勝手に開く扉を、大昔の人が見たら奇跡と讃えるのだろうか。怪奇現象と恐れるのだろうか。魔法は実存したと喜ぶのだろうか。開いた扉の向こうから心地良いとはとても言えない気味悪い生暖かい風が吹き込んでくる。わたしはこれを夏の匂いだと記憶している。

だから夏は嫌いなんだ。

夜空にあまねく星が行き渡っていようとも。

漆黒の天井に数多たる彩りの花弁が咲こうとも。

大きく浮かぶ城が隠されているのではないかと妄想を掻き立てるほど雲が高くそびえ立とうとも。

元気の象徴である黄色い花が大きな顔で立とうとも。

 

わたしは夏が嫌いだ。

 

暑いから。

 

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