非論理的思考

いつもならおやすみタイムのこの時刻、私の脳は活発に思考を始める。
くる日もくる日も堂々巡りをしている。そのテーマは、結婚。

なぜ結婚について考え始めたのかというと、実は先日プロポーズされたから。なんてことではありません。
きっかけは2つある。ひとつは、この前結婚式に招待されたこと。もうひとつは、垣谷美雨さんの小説。

図書館が閉まって久しい。本を借りれなくて本欠になりかけた私は、とうとう父を頼った。何か本を貸してください。
「これ読め」
どさっ。テーブルの上で本がタワーを作る。1冊2冊のつもりで頼んだのに、ずいぶんたくさんの本を持ってきてくれたものだ。
そのうち、半分くらいは垣谷美雨さんの本だった。
「社会問題をテーマにしている」
「へえー」
親子の間で言葉数が少ないのはいつものことだ。薄っぺらな会話は置いといて。
言われるままに読んでみた私も、すっかり圧倒された。
すいすい読める物語。なのに答えのない問いをどーんと突きつけられている感じがする。何がすごいって、なかなか口に出されることがなかった、「それっておかしくない?」という感覚を鮮やかに切り出してみせる、その手腕。
高齢化社会、被災地に対する支援、貧困。そういったところに社会の歪みは隠れている。

とりわけ私が考えさせられてしまうのが、結婚。
「上等の男を捕まえなさい」
なんて面と向かって言われたら、私は耳を貸さなかっただろう。男は働き、女は家庭。そんなの昔の話じゃん。
しかーし!小説の登場人物たちは実にシビアに結婚相手を品定めするのだ。
年収はいくら。親との同居はありか。年齢。外見。趣味。性格。
彼女たちは、生きる上で結婚を選択肢として視野に入れているわけだ。王子様と幸せに暮らしましたとさ、というおとぎ話とは違う。

今のうちに結婚相手を探しておくべきかなあ。
つられるように、私はそんなことを考え始める。まだ老けないうちに、なるたけ高く自分を売りに出す。
「一生結婚しない!」と豪語していたやんちゃな小学生も、30や40になればそのうち後悔の念にかられるかもしれない。なぜ20代のうちに婚活をしなかったのだろうかと。
馬鹿馬鹿しい。
誰も見ていない暗闇で、私は思いっきり顔をしかめてみる。結婚なんかで自分の人生の価値が決まるわけではないはずだ。
一体、なんのための結婚なのだろう?

そのあたりをぐるぐる思考はさまよっている。
どんな風にして私は生きていきたいのだろう。

人生に失敗も成功もない。幸せかどうかは自分で決める。
自分の力で生きていきたい。できれば誰にも頼らずに。
孤独と不安を抱えながら?
それって本当に幸せと言える?

結婚が必ずしも幸せではないことは、私にもイメージできる。一緒に暮らしている家族について気に入らない点を挙げればきりがない。人のことは言えないんだけどネ。
保険をかけておくための、結婚。職を失ったり、病気や事故にあったりする可能性もある。1人より2人の方が心強い。
離婚して母子家庭になり、日々かつかつの暮らしを送る人のことも、私は見ている。
何が起こるかなんてわからない。絶対安心な生き方なんてあるわけない。

ぐるぐる考えても始まらない。思い切って婚活をしてみるのも良いんではないか。よくわからないからちょっとやってみようか。それくらいの軽い気持ちで。
ここぞという時の思い切りの良さだけが私の取り柄なのだ。よくわからないからロシアに行き、よくわからないから議員事務所に勉強に通った。結婚もひとつの勉強と言うのなら、なんぼでも結婚したいような気持ちになる。
でもやっぱり無理かな。留学やインターンと結婚を同列に考えるような人間と付き合いたいなんて物好きは、そうそういないだろう。

だけどどうしてそんなに、深刻に考えなくちゃいけない?
私にはまだ、物事の価値がよくわかっていないのだ。ひとりで生活することの厳しさも知らない。人から見放される孤独も知らない。ただ漠然と結婚についてあれこれ考えを巡らせるばかりいても、それが何になる?

こんな調子で、夜毎に脳内議論は切羽詰まってくる。
おかしいじゃないか。ローンがあるわけでもない。身寄りがないわけでもない。安全な住む家もある。切羽詰まる理由などどこにもないというのに。
ほとほと参ってしまいそうなのだ。本当に。
誰かに話してみようと思うんだけど、なぜか私の口は重くなる。家族に話す柄じゃないし、目の前に信頼の置ける友達がいても上手く話せない気がした。
こんな時には文章に書くに限る。

すると!ぱああーーー。
天啓でも降りてくるみたいに、このもやもやの正体が見えてきた。
思ったことをちゃんと話せるようになりたいんだ。そのための相手を切実に必要としている。結婚が必要なわけではない。
要するに私は、寂しいんだなあ。

小説の中の人物たちの気持ちは、手に取るようにわかる。多くのことをしゃべっている。友達に、家族に、信頼の置ける相手に。
あるいは、主人公の心の声が言語化される。
それに対し、私の心の声は上手く言葉にならない。自分でも閉口するほど秘密主義だ。
誰かに心を打ち明ける様を思い描こうとすると決まって、深刻な雰囲気になる。何を怖がっているんだろう。かまえず気楽に話したらいいのにね。

まずは、家族と話すところから始めなければいけない気がする。でもさ、何話したらいいんだろう。

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