秋の日誌

もうじき高さ10メートルに届くかというところで、アカマツは突然枯れてしまった。薬剤を打ったりもしたけれど、はじめに下枝の変色が認められてから全ての葉が枯れ落ちるまで、結果2週間もかからなかった。カミキリムシが媒介する線虫病。周囲に被害が広がるのを防ぐため、このマツは抜根して焼却処分するか、根本ギリギリから伐採して焼却、残った根には薬剤を打ち、更に燻蒸処理を行う必要がある。

今日9ヶ月ぶりに私の職場へと遊びに来たしょうちゃんは、このアカマツの異変にすぐに気付いた。根元へちょろちょろと駆け寄っていくと、後ろにひっくり返りそうなほど首を曲げ、灰色に色褪せ、葉を失った高い枝先を見上げていた。彼の隣りに並んで、自分も上を見上げてみる。こんなに立派な大木だけれど、未だ誰一人これが枯れたことに気付かない。小さな右手が不意に、私の制服のズボンをぎゅっと握った。だんまりを貫くしょうちゃんの口から、なにか言葉が出てくるのを待つ。よそよそしい秋の風に、肌寒さを感じる。

「コロナだから?コロナだから枯れちゃった?」

しょうちゃんはやがて、やっとのことでそう尋ねた。

「コロナは関係ないよ。木はコロナに感染しないから。」

私がそう答えると、彼は予想通り少し安心したような表情を見せた。けれどそれからすぐに小さく俯き、

「じゃあ、もっとこわい病気になった?」

と尋ねた。

「たしかに、松の木にとってはもっとこわい病気かもしれない。人は罹らない、木の病気。」

しょうちゃんは、ふうん、と言ってそれからそのまま、地べたの芝生にだまってしゃがみ込んだ。こうなると彼は、いよいよ長い。私もしょうちゃんの横に座り込む。

木は枯れても尚、堂々としている。朝日を浴びると人知れず燃え立つようなその姿には、アカマツの名前の由来を知る。

気持ちばかりの最後の餞に、今年のクリスマスには、この巨大な枯れ木をメインツリーとした季節演出を考えている。コロナのこともあり、どれくらいの人が観に来るかは分からない。でもたった1人、このアカマツの静かな死を悼んでくれたしょうちゃんだけは丁重にお招きし、まだ空想と優しさと、言い知れぬ恐れとで鮮やかに満ちる彼の7才の冬を、思い出として写真に収めてあげたいと思う。線虫の孵化が始まるのは春先なので、とはいえクリスマスが過ぎれば1月中には、全ての処理を済ませなくてはいけない。抜根の運びとなれば、地面には直径4メートル近い穴を掘る必要があるだろう。とても人間一人でできる作業ではなく、重機もいれば助っ人もいる。不自然な場所で生きてしまうと、樹木でさえ死ぬのに金がかかるのだ。そんなことを、ぼんやり思った。

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