Рассольник

どうやら、牛肉は最初から煮汁をとるというので正解だったようだ。

作り方を見ても、どこにも「牛肉を入れる」と書かれていない。書かれているのは、「ブイヨン1.8リットルを煮る」。

何年か前にロシアのスープを作った記憶をたどる。
その時はボルシチを煮たのだった。肉は塊のまま最初にゆでた。たぶん、丸ごとビーツと一緒に1時間くらい?
窓の外が氷と雪で真っ白に閉ざされた部屋で、具材が煮えるのをじっと待った。その後でスープから取り出した肉、ビーツと、さらにじゃがいもにんじんも、全ての具材を細かく刻んだ。もう一度鍋に戻してトマトと塩で味をつけたはず。

日本のスーパーで買ったシチュー用牛すじ肉は、すでに細かく切り分けられていた。1時間も煮る必要はないんじゃないか。沸騰した湯にローリエ3枚と一緒に放り込んだ。
みるみるうちに、泡立つ湯の表面に白い灰汁が浮いてきた。牛肉ってこんなに灰汁が出るんだ。際限なく湧き出てくるクリーム状の泡をおたまですくっては流しに捨てた。

しかしどれだけすくってもキリがない。
灰汁取りを一旦中断し、じゃがいもと玉ねぎを細かく刻んだ。じゃがいも4個では多すぎると思う。2個でいいや。日本のカレーみたいに具材がゴロゴロしていても別にいいんじゃないかと思うけど、でも細かくすることを私はやめなかった。スープの具が細かいのが、ロシアのスープなのだから。
もう一度、レシピを確認して気がついた。「玉ねぎ」とは書いてなかった。パッケージをよくよく読んだら、玉ねぎにんじんは調理済みでスープの素に入っているらしい。まいいか。ちょっとくらい玉ねぎの多いスープになったとしても味に問題はないだろう。ついでに冷蔵庫に残っていたマイタケも刻んで追加する。
「Перловая крупа は40分茹でるべし」
と書かれているところは省略し、スーパーで見つけた蒸しもち麦を使うことで解決した。辞書で調べたら「パール大麦」と出た。真珠とは違ってももち麦ならきっと立派に代わりを努めてくれそう。

あ、なんだか、楽しくなってきた。
レシピ通りではつまらないんだ。冷蔵庫に残っているものを片付ける。ないものをどうにか工夫して間に合わせる。そうしたら無駄なくちょうどいい料理ができる気がする。

作り方なんて多少適当なくらいがいい。
最後に調味料を入れた。「5分煮る」というところをすっ飛ばして皿に取り分けようとした。ところが、その5分が意外と大事だったりする。1杯目食べ終えた後、火にかけたままだった鍋からおかわりすると明らかに違いがあった。スープにとろみが付いている!
スープの素には片栗粉みたいな成分が入っていたのか。もち麦のデンプンなのか。それとも牛肉とピクルスのエキスが混ざるととろみが出るのか。その辺はよくわからないけど。

ハンバーガーの中に挟まっているきゅうりのピクルスを思い浮かべてほしい。ちょっと酸っぱい、あの味を。
ウクロップの爽やかな香り、胡椒のピリッとした香り、そしてピクルスの酸っぱさ。それがラソーリニクだ。レトルトパウチの袋に入っていたはずのきゅうりはあまり細かく刻まれてしまっているせいか、ほとんど見当たらなかった。
結局、2.5リットルの分量で作られたスープを2人であっという間にぺろっと食べてしまった。めちゃめちゃ美味しかったから。
隠し味を入れた私はちょっと得意げ。何気なく入れたマイタケが絶妙にマッチしている。

ひとつだけ、足りなかった材料がある。「香りの良い胡椒」
牛肉のブイヨンを作る時、ローリエと一緒に入れることになっていた。パッケージのイラストから推測するにホールの胡椒だと思うんだよね。
ないものはないですませるという貧乏性のせいで、粉の胡椒を選択した。ラーメン屋さんに置いてあるようなコショー。くしゃみが出そうになる香りは微妙だけど、胡椒には違いない。
おなかいっぱいになってからも、「香りの良い胡椒」への憧れがなぜだか頭を離れない。ひょっとしてこれが、料理における「何かが足りない」という感覚なのだろうか。
一緒に食べてくれる人がいるなら、ちゃんと美味しい料理を作りたい。本当のロシアの味はずっと美味しいんだ…。

「分け合って食べてね」
と、ロシアの友達が調味料をたくさん送ってくれた。
ペリメニ(シベリアの餃子)なら、餃子を作ってロシアの調味料で味付けしよう。きしめんを使ったらラグマン(ウクライナの麺入りスープ)も作ることができそうだ。そうしたらもう、日本風なのかロシア料理なのかわからない。
いっそ新しい料理を作るんだと思えば楽しい。今手に入るもので上手く工夫をするというのは、制約の中にいるようでいて実は一番自由になれる方法かもしれない。

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