散歩は朝が好きだけど夕方も悪くない。少しずつ色を変える空に見惚れながら、すっかり暗くなるまで歩いた。
16時過ぎに家を出た時、まだ明るかった。昼間の日差しの名残か空気は暖かで、歩いていると暑くなってきた。マフラーいらなかったかも。
いつもと違うコース、通ったことのない道を行こう。
バス停でお婆さんのそばを通ったら、フレンチブルに吠えられた。お婆さんのお喋りがあんまり長いから退屈していたのか。
そうだ、あのカフェに行ってみたいと思っていたんだよね。あーあ、なんで今日コメダを選んでしまったのか。失敗!夕方のこの時間も駐車場は埋まっていた。また今度行ってみよう。
だんだん陽が傾いて池に着く頃には、空気はオレンジの光で満たされていた。ハナミズキも桜も燃えているみたい。ひんやりした風が優しい。枝から離れた葉っぱがひらひらと宙を舞う。私は少しだけ立ち止まって、月が昇るのを眺めた。
五線譜のような電線の間を月はゆっくりと移動していく。カモが鳴いた。があがあがあ。風が水面にさざなみをたてた。池から煙突のように突き出たコンクリートにアオサギが止まっていた。青みがかった色の翼を畳んで背中を丸めている姿は、マントを着たさすらいの旅人みたいな風情だ。
この景色を絵に描こう、と心に決めた。さざなみのひとつひとつ、葉っぱのひとつひとつ、ぜーんぶ、1枚のキャンバスに。
森の中の小道を行くと真っ暗だった。ほとんど何も見えないくらい。足の裏に伝わる地面の感触だけを頼りに坂道を登った。
竹林が揺れる。背の高いクスノキが影を落とす。その下を歩くとなんだか守られている感じがした。
しっとりとした森の土の香りに混じって、いい香りがした。なんの花だろう?アケビ?暗くてわからない。
薄暗い中でも黄色の葉っぱは見分けられた。梢で、最後まで夕日の光を受けているから。
初め一円玉のようなうっすらとした白さだったのに、いつのまにか月はこうこうと照っている。満月へと近づくふっくらとした姿。夕飯はオムライスにしようか。
風に揺られているコスモス。秋の桜。本当に秋に咲く桜があるんだ。春の桜はすぐに散ってしまうけど、秋の桜は寒さに耐えてずっと咲いている。
あと1ヶ月ともう少しで冬至なんだなあ。どうりで日暮れが早いはずだ。
クリスマスにはテレビを買わなくちゃ…。
「来月また会おう」
再会の約束はマフラーみたいに温かく、息苦しい。自分で自分の首を絞めてどうするの?
さあ帰ろう。
今夜眠れるのか、明日は行けるのか、来月私はみんなに顔向けできるのかとかそんなのはよくわからない。でも今はもう、うちに帰る。ただそれだけ。