私の第二のお母さん

「顔色いつもと違うよ、無理しないでね」
終了時間間際、私はきっと死にそうな顔をしていたに違いない。
朝から昼まで途切れなくお客さんはやってきた。アイスカフェラテや唐揚げをみんな買いに来るのだ。レジに立ち続けた私はマジでバテバテ。

一緒に働いていたパートの方の気遣いのおかげで、余裕を失くしていた私の心が和らいだ。
私より疲れているはずなのに、この人はどうしてこんなにパワフルで、こんなに優しいのだろう。
「無理しないでください」
それはむしろ、彼女に一番言いたい言葉だ。

私にとって、お母さんみたいな人。本当のお母さんであったらいいなとさえ思う。

お母さんが仕事から帰ってきたときには、ごはんを作ってお風呂を準備してあげたい。朝早くから勤務の日には、ちょっとだけ早く起きて洗濯をしよう。
…どっちが娘なんだか母親なんだか。

5年間、この方に私はたくさんお世話になってきた。初めてバイトを始めた頃、店長とパートの方がレジや揚げ物や品出しを手取り足取り教えてくれた。
今も。店長が転職していなくなった後、なにかわからないことがあったら私はこの人に頼ってしまう。

気さくに話しかけてくれるのがとてもとても嬉しい。私が聞こえないことを気遣ってわかりやすいように話してくれる。花粉症でつらいのにわざわざマスクをとってくれてさ。
彼女とは一緒に働いている時は、言葉なしにお互いの意図がつかめてしまう。1人がお客さんの注文を取り、もう1人がコーヒーを入れる、フードを取る。なにも言わずとも息ぴったりの連携プレーが自然と生まれる。

そのパートの方はほとんど休みなく働く。私と顔を合わせるのは土日だけだけれど、疲れていない日はない。
お店の人手不足が深刻であるのと、そこまで必死に働かないと生活が成り立たないという現実もある。母子家庭に社会は厳しい。

彼女だけではない。お店ではいろんな事情を持った人が一緒に働いている。
がんばって働いても、厳しい。お店の状況も生活も。誰も彼も疲れている。
決して、ブラックになりたくてブラックになるのではない。なんとか成り立たせようと、ブラックにならざるを得ないのだ。

なんでこんなに大変な思いをしないといけないんだろう。私は常々思うんだ。みんなが無理なく働いて暮らすことができる、いい方法がきっとあるはず…。

どんなに自分がへとへとでも他人への優しさを忘れないお母さん。労苦の多い生活であるのにもかかわらず、私が夢を語るのを応援してくれた。
そんな彼女のことを私は心から尊敬する。
同時に願わずにはいられない。もっと暮らしやすい社会であったらいいのにと。

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