京丹後の白い山へ向かって走る。道にはながく忘れられたままの骨が粉々に砕けて、冷たくなって、うずたかく積み上がっている。
車を停めてドアを開ける。踏み出した一歩目が、思いのほか深く雪に沈む。その人は獣のように、雪の地面をほとんど音も立てずに近づいてきた。
「あの橋の先から滑るので。」
と微笑むと、それ以上はなんの挨拶もなく、出会ったばかりの私の手をとった。
山は手入れが行き届いていた。橋を渡って少し奥まで行くと、枝打ちされた背の高い木々が地面を破るように立ち並んでいて、気付けば足元を、囁くように湧き水が流れていた。
「冷たそうに見えますけど、こうして流れ出す時はまだあたたかいんです。」
そう促されて水面に触れる。あたたかい、とはとても思えなかったが、水の通る道に沿って、分厚い雪は一部地面を這う蛇のように、遠く先まで溶けていた。雪に覆われていても、地面は熱を守っている。水はそこから流れ出て旅をしていく過程で、浚いながら、含みながら、いずれ肌を切るように冷たくなるのだ。光を受けて、輝きながら。
私たちの身体が、立っているだけで営む微かな音、そのひとつひとつが命の濃厚な気配として、白い山の中に浮き立ってはすぐに消えていく。
「少し暖かくなれば、ウサギやシカ、イノシシ、ツキノワグマも出ます。次はイノシシを捌く時にお誘いしましょう。腑を出すのが大変なんです。真冬にはあまり何も出ませんが、今日はあなたが出て楽しかった。」
その人は獣のように、沸き立つ命で私を捉える。その眼差しには言葉や時間では縛りきれない自由さが滲み出て、生きる美しさ醜さとして、今まざまざとそこに光っている。その光が、社会の外、掟の外へと、 私を秘密裏にヒトへと帰す。身の毛のよだつ畏れ。他人と向かい合うとき、いつでもこの感覚を抱けたらいいのにと思う。昨日の続きとして今日を捉えず、よく知った人としてその人を語らず、なにも知らない、分からないままで、知りたい分かりたいと、祈るままで。