人生1000年計画

 

 

 

 

 

わたしが前に立つと、自動に引き戸は右に動いた。壁と床がちょうどいいグレーで統一されていて、長テーブルと椅子が規則正しく並べられていた。横には自動販売機に似た機械と、人の姿が見られない無人カウンターがある。「ご飯類」「麺類」「スープ類」などという食べ物のジャンルが書いてある電子掲示板がカウンターの下に飾られていた。カウンターと真正面に向かった壁には大きすぎる画面が飾ってある。そこにスーツを着た現実帯びていない肌色をした人型の何かが立って何かを話していた。その右後ろには全国地図と天気のアイコンが浮いていた。

大学によくあるような食堂を思い出されるような光景だった。すでに椅子に座って食事を摂っている人が何人かいた。

「ご飯食べるの久しぶりだな」大学時代からとても仲が良い友人は食堂を見渡した。

「ああなんか完全食?っていうのやってんだよね?」

「そうそう、豆みたいなやつ1粒でその日の栄養素などが補えるやつ。今や自炊より完全食の方が安いしな」

「わたし食べるの好きだから完全食はあまり使わないかな」

「俺さ、完全食生活でもたまに何かは味のあるものが食べたくなるんよ」

わたしと友人は機械に向かった。そこは様々な食べ物の名前が書いてあるボタンが並んである。

「俺はうどんかな」「そんなんでいいの」「いいのだ」友人は何かの味付けが施されたうどんのボタンを押しては〔支払いください〕という文字が出る。手のひらサイズの液晶画面を取り出しては機械に触れた。〔支払い完了、麺類でお待ちください〕という文字に切り替わる。

続いてわたしは丼物のボタンを押して、友人と同じように手のひらサイズの液晶画面でお支払いをした。

「もう時代だよな時代。財布っていう言葉覚えてる?」

「さすがにまだ覚えてるよ、バカにしてる?」

友人は笑いながらカウンターにいつのまにか現れたうどんを受け取って席についた。わたしも丼物を受け取って席についた。カウンターは依然、人の姿は見られないまま。

「最近どう?」「ああね、俺は」わたしと友人はご飯を食べながらお互いの近況報告をしあった。一通り報告しきったあと、一息ついて友人はわたしに尋ねてきた。

「あれさ、やるの?」「何を?」「人生1000年計画」

ちょっと前までは医学的の発達により人生100年時代とまで言われていた時代があった。時代の流れは早いもので、医学はついに科学と融合し、人の体の部位を少しずつ機械に入れ替えて1000年を生きようとする「人生1000年計画」が誕生した。

「ほら、ちょうどやってる」友人は大きすぎる画面を指差した。そこには白衣を着て白いヒゲと白髪がとても似合う風格のあるおじさまが立っていた。

〔人生1000年計画第一者〕というデロップが流れる。この人は人生1000年計画を考案、発足そして自らその第一者になるという歴史的偉人に名が残りそうなことをしたのだ。確かこの人の体の半分はもうすでに機械で埋まっているらしい。とはいえ、考案発足をしたのはここ数年前の話であり、まだ1000年ところが100年以上すら生きてはいない。

「しかしすごいな、人生1000年計画に参加する人年々増加の傾向にあるらしいよ」友人は手のひらサイズの液晶画面をわたしに見せてくれた。そこにはその計画が今何千人参加しているのかというデータが載っていた。

「ふうん、長生きにもほどがあるよね」ご飯を食べきったわたしはごちそうさまと一言をおいた。

「まあねしかもこの計画始まったばかりで、成果が出るのにまだ1000年以上はかかるんだよね」「めんどくさいな、わたしはしないかな」「俺もしないかも」

わたしたちは笑いあって食器を返却口に下げた。友人はわたしに問題でーすというテンションで話しかけてきた。

「食器をそのままテーブル置いただけで自動に返却される技術もうすでに開発できると思うんだけどそれでもなお返却口があるのはなぜか知ってる?」

「愚問」わたしはすでにその答えを知っていた。

「日本の和の心とかいうやつでしょ」

 

 

わたしはそこで昼寝から目を覚ました。

 

 

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