平成が終わってしまう月の始まりにわたしはあなたに会う

 

 

2月が終わるのに10日もいらないけど、6日はまだあるんだなと思っていたのに気付いたら3月がやってきた。情報解禁の月。別れの式がある月。貴族の子女の「あそびごと」がある月。そして平成が終わってしまう月。

平成に生まれたわたしは平成が終わってしまうことにすこし寂しさを覚えている。昭和は60年も続いていたので、平成もそんなものなのかと思っていたから、昭和の半分にして終わるとは思っていなかった。まあその前の大正は更にその半分の15年で終わってますね。新しい元号は何だろうか。そしてその元号でわたしは寿命が尽きてしまうか、また新たな元号を迎えるのだろうか。

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わたしが住んだ街のおはなし(よん)

 

 

「見てください、ペンギンが空を飛んでいます!」東の都の北部に池を貯める袋の街がある。そこにある水族館が「天空のオアシス」というコンセプトでリニューアルオープンするニュースが流れていた。

「都会の空を、ペンギンが飛びます!」

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「カニクリームコロッケ」夢で逢いましょう

どうして僕はこんなにもカニクリームコロッケのことが好きなのだ。

初めて疑問に感じたのは小学生の頃だった。どうして僕はカニクリームコロッケのことがすきなんだろう。不思議なんだけれど、僕は殆どの時間カニクリームコロッケについて忘れてしまっている。つまり、不意に誰かに「好きな食べ物は?」と訊かれると、真っ先に候補として頭に浮かぶのは焼肉とか寿司とか、いかにも「好きな食べ物」をしょって立つ食べ物たちなのである。その中にカニクリームコロッケの存在はない。なんとなく酒を飲みながらソファーで読書していると、ふと思いついたりするる。「そうだ、俺はカニクリームコロッケが好きなのだ」と。この世の中には「試着室で思い出したら本当の恋だと思う」という題名の書籍があるように、「読書をしながら思い出したら本当の好物」なのかもしれない。現に、僕は明日になったらカニクリームコロッケのことを忘れているだろう。それがどうしようもなく切なくなって、僕は急いでカニクリームコロッケについて文章を書いている。

僕がカニクリームコロッケに抱いた最初の疑問は「どうしてカニクリームコロッケという名前なのだろう」ということだ。誤解を恐れずに言おう。「お前さ、カニ、入ってる?」すみません、僕がどうしようもない馬鹿舌なのかもしれない。けれど、小学生から今に至るまで、いまだにこの疑問は未解決のままだ。先日、恐る恐る上司にカニクリームコロッケの話をした。もしかしたら僕が致命的な間違いを犯し続けているのかもしれない。と不安で眠れない日々が続いていたのだ。上司は「うん、カニクリームコロッケおいしいよな。よく作るよ」と何気なしに答えた。そして僕はこう続けた「カニクリームコロッケって、なんでカニなんでしょう」僕と上司の間に沈黙が生まれた。しばらくたって上司は「確かに、クリームコロッケでもいいよなあ」と言った。僕は胸をなでおろした。この世にカニクリームコロッケにカニが入っていない事実に違和感を持つ人が存在するのだ。

もしかすると、我々がカニクリームコロッケの真理に達する日は永久に訪れないのかもしれない。研究機関に潤沢な資金が投資され、日々研究分野の細分化が加速する現代において、なんの変哲のないお惣菜の謎が解明されないままにあるのだ。あるいは僕たちが寝ている間に魔法使いが頭からカニクリームコロッケの記憶を抜き取っているのかもしれない。僕は魔法使いがよなよな頭に杖をつきつけて記憶を引き抜く姿を想像した。カニクリームコロッケの記憶は白く糸状になっていて、水に浸すと散り散りにほどけてしまうのだ。(よしだ)

夢で逢いましょう「カニクリームコロッケ」