砥上裕將『線は、僕を描く』

4分の3、読み進めたところで一旦本を閉じた。閉じた瞼の隙間からじわじわ涙が出てきた。
決して悲しい話なんかじゃない。悲しい気持ちになるような本なら他にいくらでも知っている。
悲しいのではなくて、切ないような気持ちだ。
美しいものを見た時の感動はきっとこんな感じなのではないかと思った。ただ物語を読んだだけなのに、実際に絵を見ていたような気がする。
でもおかしいな。
美しい絵ってどんなものだろう。泣けるくらい感動するような絵って?
見たこともない絵を、見たような気になって泣けてくるのだからおかしいよね。
なんだろう、この切ない気持ちは?
とりあえず、読み終わってから考えよう。 “砥上裕將『線は、僕を描く』” の続きを読む

何か探している

まず蜘蛛の巣を取り除かなければならない。トタン屋根の下、細い銀の糸を見逃さないように薄暗がりに目を凝らす。
かつては毎日通勤で乗っていた自転車は、今や2週間に一度、図書館を往復するのみ。ちょっと乗らない間に蜘蛛は巣を張る。絵に描いてやりたくなるほどに立派なやつを。 “何か探している” の続きを読む