人はなぜ、コンサートやライブに行くのだろう。YouTubeやCDから音楽を聴くことができるのに。
前から疑問に思っていたけれど、その答えがわかった気がする。
ステージの上であの子が歌っている。ギターを弾いている。
ああ、あんな風に歌うんだ。
その子の観客になれたことが、私はうれしかった。
生きるために、書く。
ドアを開けて物干し竿の方を確かめると、もうすでに洗濯物は取り込まれたあとだった。ばーちゃんだな、と私は思う。
そのまま家に引っ込む代わりに、私はその場に腰を下ろした。ここは庭。芝生ではないけれど、座っていても誰も文句は言わないし。 “庭” の続きを読む
窓の外に皇帝ダリアが見える。ちょうど向かいにある車庫の屋根と同じくらいの高さだ。10月の日差しを受けて、緑色をした幹はまっすぐ空へ向かって伸びている。
もう少し寒くなると、「皇帝」の名にふさわしい気品を兼ね備えた、堂々たる、薄紫の花をつけるはずだ。 “文章が生まれてくるところ” の続きを読む
recur 再発する
昨日覚えた英単語が脳内にちらついた。
I’m afraid that the sprain will recur on my ankle.
左足首がうずき始めていた。 “山登りは再び” の続きを読む
雨の日の朝早くだった。母が車を運転して送っていってくれる。どこへ向かっていたのか、今ではもう覚えていない。ただ、あの日の踏切は、通勤時間で急いでいる車の列をあざ笑うかのように、意地悪く遮断機を上げ下げしていた。黄色と黒に交互に塗られたバーは、電車が来る気配がないのに下がったかと思えば、今にも踏切に電車の鼻先が達しようというのに上がり始める。 “石の里、水の谷” の続きを読む